ミスキの物語
静かな図書館
風真学園。見た目はただの学校だが、裏では日々人ならざる力を持つ者たちが自身の力について学び、修行している。
表では結構レベルの高い学生を育成しているらしく、ニュースでも取り上げられる程だった。
受験日には定員の約3倍以上がこの学校に訪れ、わいわい騒ぐ。その時が一番落ち着けなくイライラする。
学校から出て斜め右、並木の道をまっすぐ2分のところにこの図書館がある。
学校が建つ以前からあるらしく、学校ができたと同時にこの図書館もその学校の敷地内に登録された。
築50年。私は出来てから数年後にここに住み始めている。数段にも積み重なった本棚。およそ20m高。奥行約50m超。天井にいくつかあるステンドガラスからの光が、シャンデリアをキラキラ光らせる。
奥に広間があり、テーブルが二つ、その一つをたくさんの本で占領し、私はいる。
来場者はいない。私がいることで、学校では《図書館にうごめく謎の影》として都市伝説扱いされている。
悪くない。だってそれのおかげで誰も来ないんだもの。静かに本を読める。
ちなみに全部読み尽くしていない。それほど本が多いのだ。7割ほどが魔術に関する本である。人でも、読んで実践してみれば魔法が使えるかもしれない程詳しく書かれている。
別に一人が楽しいわけではない。こうやってただ本を読み。読み終え、本棚をあさり、また読むのが日課だがやりたくてやっているわけではない。
全ては自分の責任である。こうして図書館に縛られて生きていく運命に変えたのはほかでもない私自身である。
パタン。
「なぁ・・・もっと面白い本ないのかよ・・・。」
忘れてた。
こいつの存在をすっかり忘れていた。
「あぁ・・・暇だな~。おい、何か面白いこと言えよ」
「黙りなさい」
「へいへーい」
ボッサボッサでギザギザの髪に似合わない現在で言うとイケメン?な顔つきの170cmヤンキー男。
いらない人をズタズタにしてくれる人さん。
↑名前である。
今私が唯一召喚できる使い魔であり、現在放流中。
召喚がしらに「いらない奴は全部俺がズタズタにしてやる!」と言ったのでその名前にした。
説明終了。正直こいつについて話すのはほとんど無い。さよなら。
時計を見る。
あ
そろそろ“あの人”が来る頃だ。
転校生が来ると風の噂で聞いてから10日後位にやって来たあの新入生。
私の時間は“あの時”から止まっている故に年からして同級生らしい。
最初戸惑った。突然の訪問に本から目を離し、その少年と目を合わせてしまう。最初はどうも程度で始まった会話。帰って欲しいと思ったがなぜかその少年の会話は聞いてて面白い。私が勧めた本も読んでくれた。一緒に席を並べ黙々と本を読んだこともある。
そんな少年が今日も来る。
なぜだろう。
最近それが楽しみになってきている。
私の空いた穴を埋めてくれる。そんな気がした。
この人なら仲良くできる。そんなことまで考えていた。
今日くらい出迎えてあげようかと考えた。
「そういやあいつもうそろそろ来るんじゃね?今日はどんな話題を持ってきてくれるんだろうな」
あいつも楽しそうだ・・・
私は・・・
いや、考えてはダメだ。彼には迷惑をかけられない。巻き込んではいけない
さてと。
私は立ち上がり長い本棚のあいだを通っていく、図書館の扉が開く。彼が現れ、いつもの笑顔で、扉の近くまで来ていた私に驚きながらも手を振る。
私も、少し早い訪問に少し驚きながらも彼に手を振った。
それなりに昔
まだ私がそれなりに強く、それなりに有名だった全盛期。それなりに魔女だったころのお話
最強の魔女だと名乗る少女が私に勝負をしかけてきた。
小顔で目が大きく緑髪、腰あたりまで伸ばしている。
自慢げな表情で腰に手をあて、無い胸を張っている。
無論私が勝つわけで、少女はとても悔しがっていた。
だけどとても興味深いものを見た。それなりに昔に封印されたはずの魔術を彼女は使っていた。使いこなしていた。
よほどの魔女でなくては使いこなせないものをその少女はまるで息をするくらい簡単に使っていた。
無論私も使える。独学で研究し、見出したもので、かつて封印された魔術とは少し違うが…
少女は見た目は少女だが中身はけっこうなおばさんだと、口調から気づく、なるほど、そういうことなら使いこなせていてもおかしくない…
私がそう笑うとかわいい頬を膨らませ地団太を踏む。可愛い
だがおばさんだ。
まだ戦えるというが少女の周りには私の召喚したバハムートの群れが牙をむいている。
無論少女の顔は青ざめている。
戦意喪失。それでも口からまだ戦えるなどという無謀な言葉がでるとは、よほど負けず嫌いなのだろう。
少女の木の棒?杖?から複数の魔方陣が現れ私のペットたちを爆殺しようとする。しかし私の防御魔術をもってすればそんなもの通用しない。いくら封印されるほどの魔術を以てしても敵わない魔術を有する。私ってなんて最強…
結局少女はお決まりの言葉、おぼえてろよー!と言い残し去って行った。可愛い。
だがおばさんだ。
そういえば名前を聞いていなかったかな?言ってたような気がするが覚えていない。いや、エクレヤとかいう美味しそうな名前だったはず。きっとそうだ。とりあえず覚えておこう。
あれから数年彼女は再び現れた。
嫌なオーラを纏いながら。相変わらずの可愛い少女の姿のままで。
今回の彼女は少しやばい気がした。
さながら神の力でも盗んできたのだろうか…左頬に神特有の印が見える。
彼女は神の一部を取り込んだのだ。私を倒すために…さすがに神を取り込んだ彼女は強かった。だがパターンを読み取れば余裕だった。
そうだなこれ以上話すと私が魔女を止め、図書館で縛られる運命を背負わされるところまで話し込んでしまう。
少女かい?あの子は今も魔女をやっているよ…最近悪魔の’色’を取り込んだらしいけど…あの子は強くなるためには手段を選ばないからね、ちなみに今は私より別の誰かを標的にしてるらしいけど私には関係のない話だ。
話が長くなったかな?
座るのも疲れたでしょう…外の空気を吸ってくるといい、私?無論外には出れないのでね、君が外にいる間に君にあった本を探すとするよ。
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彼は絶えずステンドグラスをじっと見つめながら私の話を聞いていた。
いつもより多く話した気がする。
普段、こんなに話さない。聞きたいというから話したのだがキリの良い部分が見つからず、仕方なく無理やり適当な嘘をついて終えた。
それでも彼はつまらなそうな顔をせず、やっぱすごいね君はとでも言ってるかのような目で見ていた。
彼を外の空気を吸うよう促したのは無論、このままでは見つめ合って空気がおかしくなると思ったからだ。
恋とか惚れるとか、私には存在しない。彼はどうなのだろう。恋、という概念があるのだろうか?
そもそも恋とはなんなのだろうか?直接彼に聞いてみよう。
外から戻ってきた彼にさっそく聞こうとするが、あれ?本は?と言われた。そうだ。私は彼にあった本を用意しなければならない。ああ、ついでに恋について書かれた本も探して見よう。そのほうが早い気がする。
しかし、本棚に向かおうとする私をなぜか彼は止めた。
なんなのかと振り向いたら結構近くに彼はいた。私を呼び止めながら肩を叩こうとしたのだろうか…右手が肩に向かって伸びていた…私はその手をとりあえず掴んで、掴まれたことに慌てふためく彼に
いやほんと、あの時は何を考えていたのかわからないくらい思考が不安定だった。今考えるだけで胸がイガイガして鬱陶しい…
「恋…とは…何なのだ…?」
「…え?」
あの後どうなったか?なんて聞かなくていい。話すのがめんどくさいよ。まあ強いて言うなら彼もよく分らなかったらしく、そこで会話は終了。
「女心の分かる本・・・」
「珍しいな・・・ミスキが魔道書以外の本を読んでいる・・・」
そろそろこの使い魔には喋れないように施してやろうかと思った。私は静かに本を読みたいのに・・・といっても今回のはいつもとは違う、魔道書とははるかに異なる内容の本である。
なぜこんな本が図書館にあるのかは割愛しよう。というか正直私にもわからない。使い魔が持ってきたのだろうか。
そうそうこの前本棚の上から世間一般でいう「エッチな本」を見つけた。多分使い魔だろう、水着の女性が好みだとは思わなかった。でもこんなに野性的な使い魔を召喚できるなんて、
まだ衰えていないのね、私ってなんて天才なの、、、
おっと話が逸れてしまった、そうそう恋についてちょっと調べてみようと思ったんだ。そこでこの本である、女心というものを知れば恋についても少しばかりわかるのではないかと思った。女の考えていることがこの本一つで分ってしまうなんて・・・なんてすばらしい本なのかしら・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・????」
「ミスキ、体内に流れる魔力が乱れているぞ、このままじゃ俺、消えちゃう・・・消えちゃうよ?・・・・ねえ、ミスキちゃん!?」
消し炭の一歩手前にしてやった。だが確かにこのままじゃ魔力の乱れで使い魔への魔力供給が遮断されて彼は消えてしまう所だった、危ない危ない・・・
「ミスキ、俺はもうだめかもしれん・・・」
「馬鹿じゃないの?」
私の召喚した使い魔がそう簡単に死ぬものですか・・・
ていうかこれは深刻な問題かもしれない・・・まさかこの本を読んだことで私の重要な欠点が出てしまうとは・・・これはマズイわ・・・なんとかしないと。
「使い魔・・・ちょっといいかしら」
「なんだどした?」
「重要な話なの・・・真面目に聞いて」
「・・・分った・・・話を聞こう、主。」
使い魔にこんなお願い事をするのは多分世界中で私だけだろう。非常に緊張する。
彼もまた、察しているのだろう、いつもみたいな呑気な表情は消え、キッとした目で私を見つめている。汗が出ている、緊張しているのだろう・・・。
私は意を決して彼の目をまっすぐ見つめながら口を開いた。
「・・・漢字を・・・教えてちょうだい。」
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