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飛ぶのが楽しかった。

この疾走感がたまらなく好きだった。

いつからか速さを求め、ずっと飛んでいた。

飛んでいた。飛んでいた。


飛び続けていたかった。

とても痛かった。

地に降りたのは何年以来だろうか。

忘れるほど飛んでいた。

記憶が飛んでしまうほど永く飛んでいた。

気づけば他の飛んでいる者を邪魔者扱いし殺していた。

空は僕のものだ。

僕以外飛んではならない。

いつしかそんなことを考えていた。

空の支配者と呼ばれた。

悪くはなかった。

いつしかそれは


空の暴君とも呼ばれた。



空は美しかった。

だが僕が他の空を飛ぶものを壊していくうちに


汚れてしまっていた。

地上も

かつて空を飛んでいたものの残骸によって

埋め尽くされていた。


そして僕もまた

その残骸の一部に成り果てていた。

灰色だ。

地上に落ちての第一印象だった。

だが悪くはなかった。

地平線いっぱいに広がる大地。

何もない大地。

平で、凹凸のない大地。

美しかった。





ああ

こんなにも大地は素晴らしいものだったのか。

薄れゆく意識

僕は。


かつてより空を愛していた僕は。




地上に恋している。


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西暦49××年

空の月烈空の日

守護神:ヘルメス・マーキュリー

死去

死因:自殺

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