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支配する

海は無かったらしい。
かつての地球に水は無く。大地がすべてを覆っていた。

自然が大地を潤し、海を作り出したらしい。

いつくらいの時代なのかわからない歴史をベラベラと話されたのを思い出す。

私が生まれた時には海は既にあった。

そして兄は私に海の支配権を譲ってくれたのだ。
しかしこの海は私でも支配しきれなかった。

海は支配する対象でしかなかった。

あらゆる怪物が生まれた、あらゆる船が海を蹂躙した。

アトランティス伝説が浮上した時、兄はいきなりどこから出したかわからないウミガメの背に都市が立ち並ぶ要塞型のアトランティスと名乗る巨大なものを与えてくれた。そのとき確信した。

人間の創造が物を生み出すのだと。兄は偉大だった。それと同時に憎かった。

人間の創造に左右され生きていくことを誇りに生きる兄が…




海を支配した。


海域に存在する船、怪物共を破壊した。

海を割って、陸を破壊して、多くの水生生物を死に追いやった。

それでもやはり支配した気分にはなれなかった。

私が作ったものではなかったからだ。

何かが足りなかった。

もっと破壊したい。

アトランティスもまた、人間の創造によって作り出された兵器である。兵器であるにも関わらず。私に懐いていた。

私の言うこともよく聞いてくれたし、その破壊力は魅力を感じた。しかし、いつだかそいつは言うこと聞かなくなった。

嫌だと…そう首を左右に振った。支配するのを拒絶したのだ。

兵器が兵器らしいことを拒絶する。あってはならない。

仕舞には私に牙をむいた。故障だろうか…感情を持ったが故に兵器としての誇りを忘れたのか…



深海の奥深くに沈めた

結局あいつは何がしたかったのか…わからない。


凍りついた体を見つめながら、いつからこうなってしまったのだろうと…空を見つめる。

ヘルメスが落ちた。兄が死んだ。

他の仲間は無事だろうか。


もう何も感じない。

見えるのは凍りついた海面と…ぼくを止めに来た…何か…

波の音は聞こえない。カモメの鳴き声も。船の汽笛も。

視界が凍りついていくなか…私は…否…我は…



…なるほど。アトランティスの気持ちが今ならわかる。

水平線。何もない。聞こえるのは波の音。何かが跳ねる音。

”美しい”


我に足りぬもの…


ただ支配することしか考えず。

海を


愛せていなかった。


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西暦50××年

深海の月海の日

海神:ポセイドン

死去

死因:凍死

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